驚きの選挙活動
先週あるニュース番組でCNNが提供していた公開討論会の様子を見て、大変驚いた。来年の米国大統領選を前に、民主党の代表者候補8名による公開討論会の番組だ。ご覧になった方も多いのではないだろうか?CNN /YOU TUBE(インターネットで動画を共用できるサービス)で、代表者候補8人がステージに立って、大型モニターに映し出されるYouTubeで送られた有権者の質問に答えるという形式だ。公開された質問は38項目で、
「Do you send your kids to a public or a private school?」
「Would a woman president be taken seriously by an Arab state?」
「Do you support gay marriage?」etc,
メールやFAXで送られたら、上記のような質問だが、質問者自身がカメラに向かって送られた映像は、想像以上にインパクトがある。例えば若い女性2人が頬を寄せ合って「あなたは同性愛者の結婚を支持しますか?」とか、中にはあわや融けそうになっている「雪だるま」さんからの投稿もあって、地球温暖化への取組みを質問したりする。候補者の一挙手一投足はもちろん、微妙な目の動きまで画面に映し出されながら答える候補者の恐怖は、いかほどのものかと思ってしまう。勿論事前に質問内容は候補者に伝えられているだろうから、それらの質問に対して「前向きに検討します」なんて回答者はいない。候補者の回答内容にも関心は集まるが、その表情や目の動きに会場にいる有権者が息を呑んで見守っている緊迫感は画面を通してもヒシヒシと伝わってくる。すごい時代に突入しているんだなあと改めて思う。もちろん私が見た公開討論番組は、CNNの管理下のもとで制作、放映されているものだから、安心して見ていられるが、現実は様々な規制はあっても、誰でも動画情報の発信者になれて、あらゆる情報が日常的に見られる時代に入った事は、どんな現実を突きつけてくるのか、その影響力は予測しがたい。やはり映像のインパクトは文字や声だけの情報とは、別次元のものだということを肝に銘じておかなければならないと思った。
YouTubeは、2006年10月に Googleが買収し、現在、日本語を含めた9カ国語で配信されているそうだ。英語で「管」とか「ブラウン管」とかいう意味の”Tube”と聞いて、私は多田富雄氏の「免疫の意味論」で説明されている「人間は消化管という管(チューブ)を内腔とした、巨大な管(チューブ)である」という解剖学的解説を想起する。この消化管(Tube)を通して人間は外界からあらゆる種類の食物を取り込み、消化し、栄養源として吸収し、不要なものは排泄して生きているという。それは単に栄養分の消化吸収のための器官ではなく、内なる外との絶え間ない接触の場であり、人間としての体制を維持するための強力な免疫学的戦略が配備されていると解説されている。”YouTube”という名称が、こうした生命科学的見地から名づけられたかどうか知らないが、私にはこの”Tube”が”消化管”の機能と重なって思える。
つまりあらゆる情報、ゴミのような情報も重要な情報も、有益な情報も害悪な情報も、私的な情報も公的な情報もいっしょくたになって、このインターネットという”管”を通過していく。その膨大な情報の中から社会の体制を維持するために必要な情報を選別し、消化し、吸収し、排除処理する免疫機能をGoogleのような検索エンジンに期待するのは、卑怯だろうか?
Googleの社名の由来からして、その役割を単なる検索機能だけでなく、膨大な情報への免疫の機能も果たして欲しいと期待するのは「あいまいな日本の私」の無責任だろうか?ショッキングでもあり、多いに考えさせられる番組だった。