「涼」の記憶-日暮蝉
20年近く続いているマンスリーチラシの制作がある。住宅に関するものだが、今は8月号の制作をしている真っ最中!夏をいかに涼しく過ごせる家作りをするかが、今回のテーマ。
夏といえば、日暮れ近くに「カナカナカナ…」と鳴く日暮蝉(ひぐらし)の声を思い出す。雷雨が上がって少し気温が下がった黄昏時に、あのセミの鳴き声が聞こえてくると、せわしなく働いていた大人たちも、一瞬手を止めて静かになる。短命な蝉の時間と、暮れていく光の移う時が重なり、子ども心にも妙にせつない記憶として刻み込まれた夏の「風物詩」だ。
が、果たしてこのような夏の「風物詩」を若い人は知っているのだろうか?と思って聞いてみたところ、
「ヒグラシって知ってる?」
「花の名前ですか?」、「え~っと、鳥の名前ですか?」、「知ってはいるけど、聞いたことはないですね」
と残念な答え。都会育ち、地方育ちは関係なく、教養の一貫として夏の季語であるとか、蝉の種類であるとかは知っていても、「ヒグラシ」と聞いて、あの身体が覚えている「涼感」のようなものを共有できる人がだんだん少なくなっていくのは、残念だ。もったいないなとも思う。
都会では無理だと思うが、20年後、30年後の里山でも、日暮蝉の声は聞こえなくなっているのだろうか?と思うと違う「冷さ」に襲われた。