満月の夜は・・・
さすがに仲秋を過ぎると月が美しい。我が家の猫さえ、ベランダで月を見上げているから満月の夜は、なにか不思議な力が働くらしい。
今頃の季節なると必ず思い出す人がいる。だいぶ昔、偶然にバスで取り合わせになった人から聞いた話だ。隣に座ったその人は60歳位の人だった思うが、その人の知人で神田で古本屋を営む人がいたらしい。
その人は毎年、秋も深まる頃「今日がその日だ!」と閃きがあると、店を占めて、空のリュックと手ぬぐい1本を持って、どこかに出かけるんだそうだ。どこへ行くかというと、落ち葉拾いに東京近郊の山里へ出かけるとの事。鮮やかに色づいた紅葉を見つけては、山中で拾ったり、他人の庭からをお裾分け?してもらったりしながら、とにかくリュックいっぱいになるまで、落ち葉を詰め込む。そして近くの銭湯で汗を流し、落ち葉でいっぱいになったリュックを背負って、帰宅するという。
そこで、拾ってきた紅葉をどうするか?
水を張った盥(たらい)の中に、その紅葉を浮かべて縁側に置くのだそうだ。夜が更けてくると、水を含んだ紅葉は一層色鮮やかになり、その水面に月が映る。それを眺めて一夜を過ごすのだそうだ。
風流ですなあ~っと、えらく感動して月が美しい季節になると毎年思い出している。
後日談だが、そんな風流を私も真似してみたいと思って、同じようにやってみたことがある。紅に色づいた落ち葉を拾ってきて、たらいに水を張り、ベランダに置いて待つこと?時間。ところがその小さな池に月は映らないのであった。月が出る時間と角度と盥の大きさとベランダの広さと諸々の条件が揃わないと、風流は楽しめないということがわかり、がっかりしたことがる。それからは頭の中で想像だけすることにしているが、満月の夜は猫でなくても、格別です。