憧れの人

学生の頃、富岡多恵子氏に憧れていた。詩人としての作品も好きだったし、氏が小説を書くようになってからも、新作が発表されるのを心待ちにしていたものだ。女性作家の作品をあまり読まない私でもこの富岡多恵子氏と林芙美子氏の作品だけは読んでいた。勿論作品への共感や羨望があってのことだが、氏自身の伝説的な奇行や顔立ち、世の中の全てに不満をぶつけているような不貞腐れた無愛想な表情にも憧れていた。あの頃のアプレぶりが好きだったのだ
 上京して社会人になっても氏への憧れは続いていて、新作が出ると本屋に飛んで行っては、読んでいた。20代の後半ごろだったと思うが、待ちに待った新作が出た。忘れもしない「遠い空」という本。これを読み進めていく内に、もう怖くてこわくて、途中でその本を窓から投げ捨て、一晩中布団の中で震えていたのを思い出す。老婆が主人公であるが、ジェンダーを扱ったものでおぞましくてオドロオドロしていて、とにかく怖い。今さらカマトトぶるつもりはモウトウないが、どうにも高齢者の”性”を扱ったもので、内容的には谷崎や川端先生らの艶っぽい作品ジャンルではなく、どちらかというと「遠野物語」に近い系統の「性」であるが‥。
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それから30年近く、富岡氏の作品は断読していた。(断筆という言葉があるのだから、断読というのもあるかしら?)そしてその存在すら忘れていた(すみません‥)
 ところが昨日、日経の夕刊で「富岡多恵子」氏の名前を久しぶりに目にした。毎週月曜日の夕刊にエッセイを書いているようだ。懐かしいなあ。なんというか自虐的アナーキーへのシンパシーとでもいうものか、相変わらずの富岡節も健在とみた。調べてみたら2年前には、「西鶴の感情」という著書で大佛次郎賞を受賞したり、大津事件を独自の視点で取り上げた「湖の南」という歴史本だしていたりと、相変わらずの活躍を続けている。
 我らが時代のアプレ大姐も今や69歳か‥。どんな変化をとげているのだろう。こっちも歳とったし、久しぶりに氏の本を読んでみたくなって、amazonで本を購入した。