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11) 三 都市住民の立体的移動

三 都市住民の立体的移動

都市の住民の機能は、職住分離という平面的な動きに止まるものではない。住居から職場に移動し、そこで、“職業・職務・技術・芸能”等の言葉で呼ばれる状態のなかで、激しい上下の移動現象をおこす。これを都市のメタボリズム(淘汰作用)の傾向と呼ぶ。

職場における住民の“身分・地位・職階”等はたしかに一応定着している。しかし、そこには“定期移動”という言葉があるように、一定の期間がくれば“移動”があり、ときには“転勤”などで、職場に連結する住居も含めて、他の都市地域への転出またはその逆の現象が伴う。

このようなメタボリズムは、現代都市が前近代的な封建時代の都市と異なる重要なポイントである。封建時代には、職場そのものが固定していた。武士という階級に生まれれば、その身分は生涯変わらない。世襲とか家系といったタテの人間関係が、景観的には都市とみられる地域社会のなかに、身分や職業の変化を禁止・制限する制度があった。

現代の社会は、このような階級制度がなくなりつつある。しかし民間の職場のなかにはその企業を起こした一家が、能力のいかんにかかわらず、-メタボリズムの原則に反して-昇進するものがある。しかし一般の傾向としては、このメタボリズムは激化の一途をたどるといえる。それは最近における職場機能のハイテク化によっていっそう促進されようとしている。

職場のあらゆる面において、そこで働く条件の一つに問われるのは、情報化社会の主役であるコンピューター時代への適応である。情報伝達のメカニズムが進んでいる時代に、その一つの手段であるコンピューターの使用に無知であることは、その職場に適応する能力を欠くことになる。

少し古い話になるが、テレビ番組の一つに「減点パパ」というのがあった。対話のなかでの質問で知らない、答えられないものがあると“減点”される。それが時代のなかで、子供の方が新しい知識に接することが多く、親の方の減点が多くて、親の“権威”を失墜するという趣旨である。

そればかりではない。やがてコンピューターのシステムは、今日職住分離そしてその空間の隔絶を想定しているが、これも明日の都市化のなかでは変化する。

第一は、無線によって家族関係が常に移動する可能性である。現に職場内をはじめ、タクシーは、特定の無線連絡網で結ばれている。言葉をかえれば、無線のシステムによって身分が常に“管理”されているという状態である。しかし、それはその管理体制から脱離すれば、前項に述べたように、管理社会から大衆社会への移動が可能となる。

第二に、しかしそのようなシステムが、家庭を含めてとなると、その拘束力はさらに激化する。

朝家庭を出るときに、家に設備されたコンピューターのシステムのボタンを押す。そこに現れるのは、居住する都市の住民登録の番号に加えて、所属する職場での“メリット・ナンバー”を知らせることが出来る設備である。

現在情報公開システムが、地方公共団体を通じて急速に発展している。極端な表現をすれば、住民の収入はどのくらいであるかなどは、すでに銀行の窓口において明らかであり、事実上は銀行や郵便局が個人の収入・支出を管理しているともいえる。

もしこのような情報管理システムが、“職場の身分”に統合されて表示されると、一日一日の勤務の“成績”が、家庭で押すボタン一つで明らかになることも決して夢ではない。これは、これまで具体的には分からなかった職場のメタボリズムが、“点数”によって表示される。その変動は、“刻々に変わる”ものであることが、ハッキリすることなのである。

繰り返すようであるが、現在の都市の住民は、かつての都市の住民が、“職住混在”(家内企業、寄宿工場等がその代表)であったものから、“職住分離”によって、住むところと働くところが離れることになった。したがって、そこで働く人間の評価もある程度相互の“人間関係”のなかで判定できる。しかし現代の都市は、その評価が、機械システムによって“計算”され、その総括によって判定される。

評価が表示されれば、それに伴うメタボリズムは当然激化する。かつての職場を支配していた“義理人情”などは、一つの表に示される“点数”の総括評価の陰には、全く介在の余地はないということである。

最近ハイテクの一つの傾向として”ロボット“が使用される。これまでロボットといえば、”あの男はロボット“といった言葉で分かるように、人間としての能力が欠けている。人間の真似をするものと理解されてきた。しかし、最近ロボットの性能が進み、逆に人間を”駆使“できる段階も予想されようとしている。未来の都市は、ロボットによる人間の支配ではないかという予想も可能となる。

磯村英一都市論集III-VIII 人間回復のまちづくり理論.pdf